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「潤滑油添加剤が金属表面に作用して形成された反応膜の分析」について国際シンポジウムALC’19で発表

潤滑油を開発する上で不可欠な反応膜(厚さが数十nmの薄膜)の分析を理化学研究所の最先端の高度分析施設を活用して行い、得られた成果について2019年10月21日(月)にみやこめっせ(京都)において開催された分析技術に関する国際シンポジウム「ALC'19: 12th International Symposium on Atomic Level Characterizations for New Materials and Devices'19」で発表を行いました。
当社は、地球温暖化問題に係る炭酸ガス排出を抑制する手段の一つとして、自動車の省燃費性の向上に着目し、省燃費性の高い自動車用潤滑油の開発に取り組んでいます。潤滑油の省燃費性は、潤滑油に含まれる添加剤が金属表面に作用して形成される反応膜の組成・構造に大きく依存します。したがって、潤滑油の省燃費性を向上させるためには、反応膜の組成・構造を制御する必要があり、そのためには反応膜の生成機構の解明が必要です。
当社は、反応膜の生成機構解明の一環として、理化学研究所の最先端の高度分析施設SPring-8(Super Photon ring-8 GeV、写真1)を活用して、非破壊で薄膜の表面から内部まで分析可能なHAXPES法(Hard X-ray Photoemission Spectroscopy)により、反応膜の組成・構造を詳細に分析しました。摩耗防止剤ZDTP(Zinc Dialkyldithiophosphate)のみ添加した潤滑油を用いて摩擦実験を行い、金属表面に形成させた反応膜について分析し、主に反応膜を構成しているポリリン酸分子(図1)に含まれる架橋酸素と非架橋酸素の比率を算出し、ポリリン酸分子鎖の長さの推定を試みました(図2)。その結果、ポリリン酸分子鎖の長さが反応膜の形成初期~後期、表層部~内部において異なっていることを、明らかにしました。HAXPESを活用して非破壊で反応膜中ポリリン酸分子に含まれる架橋酸素と非架橋酸素の比率を算出したのは今回が初めてです。

  1. (1)反応膜形成の初期、中期:ポリリン酸分子の鎖長は同程度
  2. (2)反応膜形成の後期:
    反応膜表層部は形成初期、中期と比べてポリリン酸分子鎖が長い
    反応膜内部はポリリン酸分子の鎖長が形成初期、中期と同程度

今後、潤滑油に使用されている基油の種類を変えて同様な実験を行い、基油が反応膜の組成・構造に与える影響を解明し、反応膜の生成機構解明に繋げたいと考えています。

なお、本研究におけるHAXPES分析はSPring-8のBL46XU(課題番号:2018B1773)で実施しました。

写真1 SPring-8全景
図1 ポリリン酸の分子構造
図2 TOAとBO/NBOの関係
(TOA:光電子取込み角度(HAXPESの分析条件))