研究者インタビュー ENEOSの花、咲かそう!

STORY 15 炭素繊維複合材料

STORY 15 炭素繊維複合材料 開発STORY   石油精製の残り物からスタートしたエコの時代の新素材開発
中央技術研究所 伊原啓裕

その華やかな見た目に相反して、「飾らない美しさ」が花言葉のアンスリウム。
その姿は、伊原さんが研究している炭素繊維複合材料の、目立たないけれどしっかりと社会を支えている部分にマッチしているといえるでしょう。

Introduction

石油を精製する際に副生成物として残るのがピッチ。従来は燃料として使用するしかありませんでしたが、当社ではこのピッチを原料に炭素繊維を開発して来ました。現在は新日鐵グループとの合弁会社(日本グラファイトファイバー)で製造販売しています。炭素繊維は、その軽さや高い剛性などから、鉄の代替部材としての期待も高まっています。この次代の先端材料について、開発を担当している伊原さんからお話を聞きました。

石油精製の残り物からスタートしたエコな製品-炭素繊維複合材料-

炭素繊維の研究をされているそうですが。

ゴルフクラブなどでカーボンシャフトという名称を聞いたことがあるかと思いますが、この場合のカーボンとは炭素繊維のことを指します。炭素繊維は日本のメーカーが世界の約7割のシェアを占めています。炭素繊維の大部分はアクリル繊維を原料として使用したPAN系と呼ばれるものですが、当社では石油製品を作るために原油を精製する際にできる副生成物からピッチと呼ばれる成分を取り出し、それを炭化することにより炭素繊維を作る研究をしていました。この製法で作られる炭素繊維をピッチ系炭素繊維と呼びます。私自身は入社以来、炭素繊維と組み合わせる母材である樹脂-接着剤のようなものをイメージしてもらえばよいと思いますーの研究をメインにおこなって来ました。炭素繊維は母材と組み合わせた炭素繊維複合材料(コンポジット)として世の中で使用されています。

どんなところで使用されているのですか?

鉄と比較して軽く、剛性が高く、たわみが少ない点が炭素繊維の特長です。そうした特長から鉄の代替部材としての活用が多いですね。身近なところでは先程のゴルフクラブや釣り竿、テニスラケットなどですが、新聞を印刷する際の大型輪転機のロールや、大型液晶テレビのガラス基板を運ぶロボットの部材など一般の方の目につかないところでも活用されています。鉄で大型の機械を作った場合、自重でたわみが生じたり、動かすのに大きなエネルギーを必要とするなど、色々問題がありますが、炭素繊維複合材料であればそうした心配もないのです。軽量という点で自動車の部品に使用すれば燃費の向上も見込めます。飛行機には古くから使用されていますが、これから就航予定の最新機種では全体重量の50%程度まで炭素繊維複合材料が使用されるようになってきています。

研究では具体的にどのようなことをされているのですか?

用途に合わせて炭素繊維と組み合わせる樹脂を開発する、といったことをおこなっています。今は、部材メーカー(ユーザー)の方たちの様々なご要望に応えるかたちで研究をおこなうことが多いですね。例えば炭素繊維複合材料の表面にメッキをきれいに乗せるにはどうすればよいかとか、炭素繊維複合材料とアルミ等の他の素材をしっかり接合するにはどのような方法がよいかとか、といった具合で、炭素繊維や樹脂自体というより、最終的な部品形状にどのように作りこんでいくかを検討する機会が増えています。また、PAN系炭素繊維は強度面とコスト面でピッチ系炭素繊維より有利ですが、ピッチ系炭素繊維はPAN系炭素繊維では製造が困難な極めて高い剛性のものを作れますし、振動特性、熱特性など、PAN系炭素繊維にはない面白い特徴も持っていますので、両者の特徴をうまく組み合わせ、またそれにさらに最終用途に合わせて樹脂を選択することで、独自性のある製品を開発しようとしています。まだまだ新しい素材なので、検討することは山のようにあります。データを見ただけではなかなか判断できず、自分で手を動かさないとピンとこないことがたくさんあります。「かけた時間だけ、得るものは多い」といつも思いながら研究を進めています。現在は炭素繊維関連の研究リーダーという立場になったので、自分で手を動かす機会が減ったのが残念ですが。

若い人には一つのことを突き詰めてほしい

いつまでも手を動かす研究者でいたいわけですね。

そうですね、研究をしているといろいろな経験ができます。失敗もありますが、そこから得られるものもあります。実験をしながらもそんな経験を思い出し、知見・発見につなげていく。そんなセンスが研究者には必要だと思います。そして、これから研究の世界に入ってくる若い人たちには、そんな経験を積むためにも、一つのことに打ち込んできてほしいと思っています。以前なら「幅広い分野を勉強してほしい」といった類のアドバイスをしていたと思いますが、今はネットを中心に情報収集が容易にできる時代です。ネットで調べただけでは真似できないような、自分だけの武器を持ってほしいですね。

炭素繊維複合材料には今後どんな可能性があるのでしょうか?

飛行機や自動車などの輸送機器に使用した際の燃費削減という観点から、これからの環境社会で炭素繊維複合材料が役立つ場面は非常に多いでしょう。ピッチ系炭素繊維の特徴である高い剛性は、大型部材ほどそのメリットが活きてきますので、部材の軽量化による省エネ、CO2削減というキーワードで、一般産業用途も含めて、今後ますますその用途は拡がっていくと思います。

お忙しそうですが気分転換にはどんなことをされていますか?

高校時代までサッカーをやっていたこともあり、現在はサッカー観戦が趣味になっています。国内では地元の横浜F・マリノスのファンですが、ナショナルチームではオランダ代表が好きで、ワールドカップなどの国際大会やその予選があれば休暇をもらって海外まで観戦に出かけることも多いですね。そんなとき、自分たちが手がけた炭素繊維複合材料を使った車や飛行機で移動できたらいいな、と思っています。

炭素繊維関連商品

炭素繊維関連商品

軽量で高剛性という特長を持つ炭素繊維は、樹脂と組み合わせることでコンポジット(複合材料)として様々な分野で活用されています。特に高弾性率グレードについては、液晶ガラス基板搬送用ロボットハンドなど、IT関連向けの大型部材への適用を中心に市場拡大が期待されています。

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